【経済学シリーズ】20世紀末を支配した経済理論:フリードマンのマネタリズム

科学・哲学

20世紀後半に、経済学の世界で一際大きな影響を与えた人物の一人が、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンです。彼の理論は、ケインズ経済学が主流だった時代に挑戦し、特に1970年代以降、多くの国の経済政策に強い影響を与えました。この記事では、フリードマンの経済理論、特に彼の提唱した「マネタリズム」について解説し、その考え方がどのように20世紀末の経済を支配したかを見ていきます。

ケインズとの対立:マネタリズムの登場

ミルトン・フリードマンは、ケインズ経済学の最大のライバルとして知られています。ケインズ経済学は、政府が積極的に市場に介入し、景気刺激策として財政政策(政府の支出や減税)を重視していました。例えば、不況時には政府が借金をしてでも公共事業を増やし、需要を生み出すべきだという考え方です。

これに対してフリードマンは、「市場は基本的に自己調整機能を持つものであり、政府の介入は長期的に見て害になる」と主張しました。彼の理論で特に重要なのが「マネタリズム」です。マネタリズムは、「経済の安定には、通貨供給量のコントロールが最も重要である」という考えに基づいています。

マネタリズムの核心:通貨供給量とインフレーション

フリードマンのマネタリズムの核心は、通貨供給量の変化がインフレーションや景気変動を引き起こすという考えです。彼は「インフレーションは常にどこでも貨幣的現象である」と述べ、通貨の供給が過度に増えると物価が上昇し、逆に通貨の供給が抑制されると景気が冷え込むと主張しました。

具体例を挙げると、もし政府や中央銀行が急激に通貨供給量を増やした場合、世の中に出回るお金の量が増えますが、商品やサービスの量はそれほど増えません。その結果、消費者は同じ商品に対してより多くのお金を払うことになり、物価が上がります。これがインフレーションです。一方で、通貨供給を急激に減らすと、企業や個人が使えるお金が減り、需要が冷え込み、不況に繋がる可能性があります。

この理論に基づき、フリードマンは「中央銀行は通貨供給を安定的に増やすべきだ」と提案しました。経済が成長するペースに合わせて通貨供給量を徐々に増やすことで、インフレーションを抑えながら経済の安定を図るという考え方です。

1970年代のスタグフレーションとフリードマンの理論

フリードマンのマネタリズムが特に注目を集めたのは、1970年代のスタグフレーション(経済停滞とインフレーションの同時発生)時期です。当時、多くの国がケインズ的な財政政策を行っていましたが、これがうまく機能しなくなりました。政府が需要を刺激するために支出を増やしても、インフレーションは収まらず、むしろ物価が上昇し続けたのです。この状況で、フリードマンの「財政政策よりも通貨供給量を重視すべきだ」という考え方が脚光を浴びました。

アメリカの連邦準備制度(FRB)は、フリードマンの理論に基づいて通貨供給量を厳しく管理する政策を採用し、インフレーションを抑えるために金利を引き上げました。この政策は短期的には失業率を高めましたが、長期的にはインフレーションを抑え、経済の安定を取り戻す結果となりました。

フリードマンの理論が与えた影響

フリードマンのマネタリズムは、1980年代以降、多くの国で採用されるようになりました。特に、アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権は、フリードマンの理論に基づいて市場の自由化を進め、政府の介入を減らす政策を採用しました。これにより、経済成長を促進し、インフレーションを抑えることに成功したと評価される一方で、失業率の上昇や社会格差の拡大といった問題も指摘されています。

日本でも、バブル崩壊後の1990年代には、金融政策がフリードマンの理論を基に展開されました。日本銀行が金利を下げ、通貨供給量を増やすことでデフレーションを防ごうと試みましたが、完全な成功とは言えませんでした。フリードマンの理論はあくまでインフレーションの制御に力点を置いており、デフレーションに対する対応策としては限界があったとも言えます。

現代の評価とフリードマンの影響

フリードマンの経済理論は、20世紀末の多くの経済政策に影響を与えましたが、現在ではその限界も指摘されています。特に、2008年のリーマンショック以降、通貨供給量の管理だけでは不十分だという意見が再び浮上してきました。中央銀行がいくら通貨を供給しても、企業や個人がそれを使って投資や消費をしなければ、景気は回復しないという現実が顕在化したのです。

しかし、それでもフリードマンの貢献は大きなものです。彼は経済学の理論に新たな視点をもたらし、特に中央銀行の役割に対する考え方を根本から変えました。また、彼の自由市場主義的な思想は、経済政策のあり方だけでなく、社会全体の価値観にも影響を与えました。個々の自由を尊重し、政府の介入を最小限に抑えるというフリードマンの主張は、現在でも多くの支持を集めています。

結論

フリードマンのマネタリズムは、ケインズ経済学に挑戦し、20世紀末の経済政策に大きな影響を与えました。彼の理論は、特にインフレーション対策として有効であることが証明され、多くの国で採用されましたが、その限界も同時に浮き彫りになっています。とはいえ、フリードマンの理論は経済学における重要な一石を投じ、現代の経済政策においてもその影響は色濃く残っています。


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