【経済学シリーズ】幼稚産業は保護すべき?リストの発展段階論

科学・哲学

フリードリヒ・リスト(Friedrich List)は、19世紀のドイツの経済学者であり、彼の理論は現在の経済政策にも大きな影響を与えています。特にリストが提唱した「発展段階論」は、国がどのようにして経済的に発展し、独自の産業を育てるべきかを示す理論として有名です。この発展段階論を理解することで、経済成長のメカニズムや、なぜ国によって発展のスピードが異なるのかを考える手がかりを得ることができます。

1. 発展段階論の基本的な考え方

リストの発展段階論は、国の経済発展を段階的なプロセスとして捉えるもので、各国が直面する異なる発展段階を考慮することの重要性を説いています。リストによれば、すべての国が同じペースで発展するわけではなく、各国が異なる段階にあるため、適切な経済政策もその国の発展段階に合わせる必要があると考えました。

彼は、国の経済発展を次のような5つの段階に分けました。

  1. 狩猟・採集の段階
  2. 牧畜の段階
  3. 農業の段階
  4. 農業と工業の併存の段階
  5. 商業と工業の段階

これらの段階を順次たどることで、国は経済的に成熟していきます。しかし、各国が発展するスピードや方法は異なるため、段階に応じた戦略が必要だとリストは主張しました。

2. 自由貿易の批判と保護貿易の提案

リストの発展段階論が注目されたのは、彼が当時の経済学者であったアダム・スミスやデヴィッド・リカードの「自由貿易」を批判した点にあります。スミスやリカードは、国際貿易が経済成長を促進し、全ての国に利益をもたらすと考えていました。しかし、リストはそれが発展段階によっては当てはまらないと述べ、特に発展途上国においては自由貿易が必ずしも有益ではないとしました。

リストは、発展途上にある国が強力な産業を育てるためには、先進国との自由貿易ではなく、保護貿易が必要だと主張しました。保護貿易とは、国内産業を保護するために、関税や輸入制限などの政策を導入し、海外の競争から自国の産業を守る政策です。彼は、まだ産業が発展していない国が自由貿易にさらされると、先進国の強力な産業に圧倒されてしまい、自国の産業が成長する機会を失うと考えました。

例えば、当時のドイツはイギリスに比べて工業力が遅れており、リストはその状況を憂慮していました。イギリスが強力な工業製品を輸出すれば、ドイツの国内産業は打撃を受け、経済発展が阻害されるとリストは考えたのです。そのため、彼はドイツが独自の産業を育てるために、国内の工業を保護する必要があると主張しました。

3. 発展段階と産業育成

リストの理論では、国が自らの産業を育て、発展段階を進めるためには、まず国内市場を強化しなければならないとされています。彼は、農業だけに依存する経済は限界があるとし、工業化が重要だと考えました。そして工業化を進めるためには、国が意図的に産業を育成する政策、すなわち保護主義が必要だと主張しました。

具体的には、次のような政策が考えられます。

  • 関税の導入:安価な外国製品が国内市場に大量に流入するのを防ぎ、自国の産業が成長する余地を作ります。
  • 政府の補助金:成長途上の産業に対して、政府が補助金を与えることで、産業が競争力を持つまでの間に発展できるよう支援します。
  • 技術開発の促進:自国の技術水準を高めるための教育や研究開発への投資を行い、国全体の競争力を高めます。

これにより、国内の産業が力をつけ、やがては外国製品との競争にも勝ち抜けるようになる、というのがリストの考えです。

4. リストの影響と現代への応用

リストの発展段階論は、特に19世紀から20世紀にかけてのドイツの経済発展に大きな影響を与えました。当時のドイツは、リストの提言を取り入れて国内の産業育成に努め、最終的にイギリスと肩を並べる工業大国へと成長しました。この過程で、保護貿易政策は重要な役割を果たしました。

また、リストの理論は、他の多くの国々の経済発展にも影響を与えました。特にアジアの新興国やアメリカも、リストの保護主義を参考にして産業育成を行いました。たとえば、アメリカの歴史において、19世紀の初期には関税政策を活用して国内の産業を保護し、工業化を進めたことが知られています。

現代においても、リストの発展段階論は有効です。たとえば、新興国が自国の産業を育成する際に、外国からの安価な輸入品に対抗するために保護貿易を取り入れることがあります。また、技術革新や産業の高度化を目指す国々が、自国の技術力を高めるために、産業政策を策定する際にもリストの考え方は参考になるでしょう。

5. 自由貿易と保護貿易のバランス

最後に重要なのは、自由貿易と保護貿易のバランスです。リストは完全に自由貿易を否定していたわけではありません。彼は、発展段階に応じて適切な政策を取るべきだと考えました。工業が十分に発展した段階に達したら、国内産業が競争力を持つようになり、自由貿易に移行することが望ましいとしました。

つまり、すべての国が常に保護主義であるべきではなく、各国が自らの発展段階を見極め、適切な経済政策を選択することが重要だというのがリストのメッセージです。

まとめ

リストの発展段階論は、国の経済成長を理解するための有力な枠組みを提供しています。彼の理論は、自由貿易がすべての国にとって有益ではないことを指摘し、発展途上の国々に適切な政策を取る重要性を説きました。保護貿易を通じて産業を育て、次の発展段階へ進むための戦略は、現代の経済政策にも大きな影響を与え続けています。

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