複数の試算価格と鑑定評価額が乖離している鑑定評価書

不動産鑑定

こんにちは。不動産鑑定士のKanvasです。

鑑定評価書を見ていると、

  • 原価法による積算価格50億円
  • 収益還元法による収益価格10億円

両価格は等しい信頼性があるため、等しく関連付けて鑑定評価額を30億円と決定した。

という結論がでていることがまれにあります。

評価書に書いていることはもっともらしく、「2つの価格をそれぞれのアプローチで算定したところ、両方の価格とも根拠資料の相対的信頼性は等しく高いので甲乙つけがたい。よってその中庸値(平均値)を鑑定評価額とした。」という結論です。

しかし、本当にそうでしょうか。

ここでいいたいのは、その価格になんの根拠があるの?ということです。

原価法も収益還元法もそれぞれに理論的な背景がある価格算定手法ですが、その平均値には何らの意味もありません。

  • 積算価格は、同じ不動産を作るとしたらいくらかかるのかという、供給者目線の価格です。これまでにかけた投資額と、その経年減価分を考慮して算定されるため、不動産を売る側としては最低この価格で売りたいな。と思う価格です。
  • 一方収益価格は、その不動産を活用すると得られる利益に基づいて算定される、需要者目線の価格です。この不動産を買ったら、これくらいの利益が出るからこの価格で買ってもいいかな。というものです。

この両方の価格が等しい信頼性を持っていたとして、その平均をとった価格は誰がどう考えて提示する価格なのでしょうか。

どんな根拠でその価格で不動産取引がなされるのでしょうか。

  • 買い手が10億の価値しか認めていない不動産は30億円で売れるでしょうか。
  • 売り手が50億で売れたらいいなという不動産を30億円で手放すのでしょうか。

こう考えると平均値で価格を決めることのおかしさが見えてくると思います。

なお、不動産鑑定評価では、その不動産を需要する典型的需要者の視点に基づいて価格を決定することとされています。

もし、上記の不動産が、収益性に基づいて取引の意思決定がされる不動産(投資用のホテルなど)であれば、資料の信頼性は同じでも収益価格の10億円をもって価格は決定されるべきです。

なぜならその価格が買い手が存在し、市場で成立しうる価格だからです。

ここまで極端な事例でなくても、「収益価格にもとづいて価格を決定すべきなので、積算価格と収益価格を2:8で関連付けて価格を18億円と決定した。」という評価書は、結構多く見受けられます。

その8億円、誰が払ってくれるのでしょうか。

【参考:不動産鑑定評価基準(国土交通省) 第6章 第2節個別分析】

Ⅱ 個別分析の適用 1.個別的要因の分析上の留意点 個別的要因は、対象不動産の市場価値を個別的に形成しているものであるため、個別的要因の分析においては、対象不動産に係る典型的な需要者がどのような個別的要因に着目して行動し、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度をどのように評価しているかを的確に把握することが重要である。また、個別的要因の分析結果は、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃 料の調整等における各種の判断においても反映すべきである。


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