【寄稿】気象予報士試験第57回実技試験(令和3年度第2回)実技1 解説

本稿は筆者Bearringの寄稿になります。

留意事項等は下記リンクページをご参照ください。

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問1

(1)

鹿児島の天気は雲量が8分の7ですので「曇り」です。現在天気の場所にある「弱いしゅう雨」は過去一時間以内にあった(現在ない)ですので、現在天気は曇りが正解です。

輝度温度は低い(雲頂高度が高い)

バルジ状の雲域の南端とは高気圧性曲率と低気圧性曲率の交点(フックパターン)であり、ここと低気圧中心の間に閉塞点があります。

バルジの北端はジェット気流の流れと一致しますから、このすぐ西にある前線の()点とあれば「閉塞」しかありません。

典型的な教科書にある閉塞期の雲ではない感じがしますが、文脈から答えられる問題と思います。

(2)

残り2本の強風軸解析ですが、北緯30度、東経130度付近にある80ノットの等速度線をどちらの強風軸に入れたらよいかが迷いどころだったと思います。

大前提として強風軸は等高度線に沿っていることが多いです。

そして南北の気温差が大きいところを通ります。

今回は、一番北の強風軸がほぼ等高度線に沿った形で書かれているため、その南の2本が大きく等高度線をまたいで歪むことは考えにくいです。

さらに言えば低気圧性の曲率を持った等高度線に沿った強風軸の流れであれば、南に凸の部分に近づくにつれて傾度風の定義から風速は遅くなります。

そしてそこを抜けるとまた加速します。

よって、2本のうち北側の強風軸は9480m線に、南側は9600m線に沿わせる形となるでしょう。

(3)

これは東北東に移動している低気圧の12時間前の位置ですから、西南西側に20ノットの速度で12時間戻してあげます。

50ノットで12時間進むとちょうど緯度10度分ですから、緯度10度の長さの20/50の長さ分だけ西南西に線をひけば回答となります。

北緯30度線のすぐ下で、東経120度と130度の真ん中ですから、北緯28度、東経125度となります。

やることは同じで15度線と18度線を西南西に20ノットで12時間分戻します。

これら等温線の傾きに沿って平行に12時間前の線を引き、その中間と東経130度の交点を探すと、29度と30度の真ん中あたりになると思います。

温暖前線面の位置は逆転層の上端ですので、そこを回答します。

定義上、前線の位置は性質の違う空気のぶつかり合う場所の「暖気側」ですので、軽くて上空に持ち上げられる暖気の性質を考えると、前線面は上空側であり、逆転層の上端が前線面です。

気温についての理由は、気温の逆転層があること、上記理由から、前線面が逆転層の上端であることとなります。

風向についての理由は、上空に向かって風向が時計回りに回転していることとなります。

寒気側は東寄りの風、暖域の風は南寄りの風ですから、ここで風の鉛直シアが大きいことがわかります。

答えは名瀬になります。

先ほど850hPaに温暖前線を書きましたが、この温暖前線の位置は北緯29度でした。

また、12時間前の地上の温暖前線を書いてみると、北緯27度くらいの位置にあると思います。

図1より名瀬は北緯28度くらいですから、地上と850hPaの温暖前線の間にあることになります。

一方鹿児島は850hPaの温暖前線よりも北にあります。

今回のエマグラムで地点の温暖前線の高度は920hPaでした。温暖前線の高度は北に行くほど高くなりますから、それよりも南側にある名瀬が正解になります。

問2

(1)

12時間から36時間後の位置をトレーシングペーパーに写し取ります。

北北東に移動しており、緯度線の間隔と比較すると緯度10度の2割には届いていません。

24時間で緯度10度を移動すると速度は25ノットとなりますから、移動距離が2割に届いていないということは5ノット未満です。

よって、速度は「ゆっくり」です。ほとんど停滞とするのは移動方向そのものも定まっていない場合です。

今回は方向は定まっているのでゆっくりです。

これは気圧の尾根の位置も①のトレーシングペーパーに写し取りましょう。

等高度線が北に凸となっている部分が気圧の尾根です。

これを写し取ると、常に高気圧の西に気圧の尾根があることがわかります。

また、高気圧の位置と気圧の尾根の間隔は時間が進むとともに近くなってくることがわかります。

よって表現としては傾きは次第に小さくなる。となります。

正渦度極大域付近(+142と書いてあるあたり)の図9における状況を見ると、

500hPa気温は等温線が南に凸となっており、付近で間隔もやや狭くなっています。

700hPa湿数の分布は、付近で等湿数線が込み合い、湿数傾度が大きく、南西側で湿潤、北西側で乾燥しています。

出題の意図を考えるに、この後この周辺に温暖前線があることを答えさせることや、この正渦度域は上昇流とも対応するため、「等温線が込み合っていること(前線がある)」「南西側で湿潤であること(暖域)」にふれる必要があると思います。

南東にのびる正渦度域に沿って上空の気圧の谷があり、上昇流があり、そこが気温の谷となっていると、500hPaの温暖前線もこのあたりにあり、北側の寒気に、南側から暖湿空気が乗り上げている最中であると考えられます。

これは問題の意図を読まなくても、それぞれの時間の北緯・東経の値を図9-11にプロットし、一番近い等温線が図12の等温線と一致しているかを、500hPa面か850hPa面で検証すればbとわかります。

出題意図としては、温暖前線が③に書いたような理由でその辺りにあり、これが高度とともに北東側に傾いていることを把握していますか?という内容と思われます。

上記の通り温暖前線です。

(2)

こちらは図6から8を使った読み取り問題です。

まず図8を見ると、図の真ん中にLスタンプがあり、そのすぐ東に⁺176の正渦度極大値があります。

そしてその南東側に⁺247の正渦度極大値があります。

これを見たうえで図7に戻ると、低気圧のスタンプは北緯36度東経132度付近のものと、その南東側の北緯34度東経136度付近のものとの2つがあります。

そしてこれらに対応する正渦度極大値を見ると、それぞれ197と323です。

これを見るに図8では消えてしまっているLスタンプは図では+323の極大値に対応したものと思われます。

よって、問題文に指示のある、24時間後より先の発達に関係する低気圧とは、図6、図7で一番目立っていた北緯33度付近のものではなく、12時間後時点でははるか北の北緯43度付近にあったほうということになります。

当初は北緯33度付近の深いトラフ付近の低気圧が発達に関与していたものと思われますが、上空の気圧の谷のほうが地上の低気圧よりも早く東に移動するため、24時間後以降では、発達に寄与する上空の気圧の谷が入れ替わったのでしょう。

これを見落とすとすべて不正解となります。

また、正渦度極大値を答えるのは低気圧のすぐ近くにあるものではありません。「トラフに伴う」ものとなります。

特に図7のほうがわかりにくいですが、関連するトラフは+323の西に低気圧から南西に伸びる+217のトラフです。

一方でこれさえわかれば、あとは定規で図るだけです。

とはいえ、限られた時間でここまでわかる人がどれくらいいたのか。そして分かったとしてこれは全問正解で4点だったようです。

気温場の時間変化は図9-11を見ます。

低気圧は12時間後は九州付近、24時間後は紀伊半島付近、36時間後は福島県沿岸です。

まず12時間後ですが、低気圧の後面は温度の谷、前面は温度の尾根になっています。

24時間後も同じく低気圧の後面は温度の谷、前面は温度の尾根

36時間後は上空ですのでかなりひねった形になっていますが、低気圧の後面は温度の谷、前面は温度の尾根という形は継続されています。

問題文によると低気圧の発達に関連する気温場の変化です。

通常は、前面で暖気移流、後面で寒気移流という価値がよくある回答ですね。

もう一度図を見ると、低気圧後面ではー6度線やー9度線があまり変わらない中、-12度線が南下しています。

前面では同じく―6度線があまり変わらない中、-12度線が大きく北西に曲がって食い込み、暖気核を形成しています。

そして暖気核と寒気核が近づいていることがわかります。

低気圧を発達させるのはこの暖気の上昇・北上と、寒気の下降・南下ですが、どちらかを回答として書くこととなります。

36時間後の図を見ると、低気圧のすぐ後ろまで寒気が入り込み、ドライスロットを形成していそうで、これがキーになるのではないかと思います。

前の問題で触れた低気圧に伴っている寒気でもありますので、これが下降することで有効位置エネルギーが運動エネルギーに代わり、温帯低気圧が発達するというセオリーも考えると、これを答えて欲しい問題だと思います。

これを解答例のように表現するのは、難しいと思いますが、寒気の流入・寒気核の移動に目を向けると、中国東北部にあった寒気核が日本海南部まで南下していますので、これが模範解答となっています。

これまでの過去問の典型的な解答からは離れているため、似た答えを当日かけた人は少ないのではないでしょうか。

これは(1)①で答えた高気圧は勢力を強めているものの、移動速度はゆっくりであり、低気圧はそれより早く高気圧のある方面に迫っていくためです。

その結果、等圧線の間隔が狭くなり、気圧傾度は大きくなっています。

気圧傾度が高まると風は強く吹きます。

(3)

前線解析です。

温暖前線は地上の気圧の谷を通すように、かつ850hPaの等温線集中帯の南縁である15度線の形を意識して書きます。

寒冷前線は地上の風のシア、前12時間降水量の値、上空の正渦度域の南縁、湿数(乾燥域の南縁)等を見つつ、降水域に沿うように引きます。

上にも書きましたが、この前線は閉塞していると思われ、図7の500hPa渦度0線をひくと、解答例の温暖前線と寒冷前線の交点付近を通っています。

よってここが閉塞点となると思われ、ここから温暖前線と寒冷前線を書き始めます。

初期時刻ですでに閉塞していましたから、こういう時には閉塞点を見つけるため、500hPaの渦度0線や700hPaの上昇流の極値を探す様にしましょう。

問3

(1)(2)

これは用語ですね。暗記問題でした。

天気予報文は書き方を一度見ておくことも必要かもしれません。

時間帯や書き方(順番がある)を把握しておきましょう。

流れとしては、地域全体の気象をまず示し、局地的な事象や一時的な的な事象を答え、次に時間帯や激しさを示すという形です。

試験直前期にささっと覚えられると思います。

(3)

大雨と雷があること図からわかり、雷があるということは背の高い積乱雲があるということですから、そこからの冷気外出流による強風や波浪も予想されます。

よって、大雨、洪水、強風、波浪、雷注意報が答えとなります。

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