取引事例比較法の適用において、個別的要因の比較の際に、対象不動産が角地であれば、+3から5%の修正をしているのが、現在流通している不動産鑑定評価書の大半ではないだろうか。
そして、評価者が当該修正の理由を聞かれた際には、「対象不動産が角地にあることにより、視認性に優れ、収益性を向上させることから、その収益性向上分のうち土地に帰属する部分を5%と査定した。」のように回答している。
ここではこの3-5%が正しいかどうかを考察するためにはどのような検討を行えばよいのかを考察する。
収益還元法の考え方を用いる方法
一般にはこちらの考え方が、上記の回答例からもわかるように常識的なように思われる。
しかし、この考え方を用いて+5%査定数値まで至るにはどのような計算をしなければならないだろうか。
まず、収益性の増加分というからには、対象不動産が角地である場合と、そうでない場合(中間画地)の収益価格を土地残余法などの手法によりそれぞれ計算し、そこから土地価格の差を算出することになる。
鑑定評価の手法にのっとれば、角地の賃貸事例と中間画地の賃貸事例を用いてそれぞれ収益還元法を実施することで、この差は算出することができる。
このような考え方が一般的な鑑定評価実務において行われているものであり、理論的には一応の筋が通った考え方であると認識している。
ランダム化比較試験の考え方を用いる方法
一方で、不動産の特徴として、二つとして同じものがないという特性が挙げられる。
本来であれば、角地+5%の補正をする際には、対象不動産の地域要因及び個別的要因のすべてが同じで、画地条件のみが角地である場合と中間画地である場合に分けて考えなければならない。
しかし、不動産はその特性ゆえに、これを考えることができない。
ある土地が、角地であり、中間画地でもあるという状態はありえないからである。
上記の収益還元法の考え方を用いる手法は、土地の条件にしてもその上の想定建物にしてもすべて想像上の概念で、科学的におかれた仮定ではない。
では、どのようにすれば、このような状態のもと、角地の修正率を検討できるだろうか。
統計学の手法には、ランダム化比較試験という手法がある。
これは、たくさんのデータ(取引事例)を、各事例の不動産が角地のもの(グループ1)とそうでないもの(グループ2)に分け、その後各グループから、ランダムにサンプルを取り出したうえで分析を行う手法である。
このように、ランダムで取り出すことにより、数学的には、比較対象としたい要素(今回は角地)以外の要因は、平均的に同じとみなすことができるようになり、比較要素のみの分析が可能となる。
この手法により回帰分析を行うことにより、角地の相場と中間格差の相場の格差率が統計的に判明する。
※上記の図では、縦軸に価格単価、横軸にはその他の変数(変数は駅距離や道路幅員など様々なものが考えられ、2次元のグラフには収まらないために、便宜的にその他の変数とまとめた。)
一方、このような統計的な手法を用いるには、現在国土交通省の土地取引情報で公表されているよりも、詳細かつたくさんのデータが必要となる。
現状の公開データベースだと、このような考察を行うことはかなり難しいと言わざるを得ない。
いかに説得力のある手法でも、社会インフラの状態や国の法令等により適用が難しい面がある。これは不動産評価に限られたことではなく、テクノロジーが受け入れられていく過程でどのような場合にも起こりうる。
自動運転車も当初法令に阻まれていたが、国はその内容を見直し、テクノロジーに対応した法律を作っている。
このような国の対応は自動運転車だけでなく、今後様々な面で必要になってくる。ドローンによる配送もそうだし、弁護士などの専門家業務へのAI導入もその一例だろう。
今後の鑑定士は、時代の流れに沿って、社会に適応したその時代時代の評価手法に習熟していく必要があるだろう。
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