今年も国土交通省の鑑定業者への立ち入り検査結果が出ていました。
https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220902_kensakekka.pdfもちろんこの指摘内容は鑑定評価上大切なことですので、鑑定業者は厳に留意して鑑定評価に臨むべきです。
一方、毎年当該内容を踏まえた協会の研修が開催されているにもかかわらず、ここ数年毎年同じような指摘項目が並んでいるのも事実です。
指摘を受けることは仕方ないかもしれませんが、毎年同じ間違いを誰かがし続ける業界は勉強不足であるとみられても仕方ありません。
本稿では個別の内容をいくつかコメントしたいと思います。
鑑定評価の基本的事項の確定
鑑定評価の各種の条件は、鑑定評価額がその条件のもとでのみ妥当する価格を示していることを考えれば、省略等を行うことが許されないのは当然です。
また、どうしてその条件を付けることが妥当と考えたか、説明責任を果たす必要があります。
対象不動産の確認
鑑定評価においては対象不動産の実地調査が原則です。できなかった部分等があれば、なぜできなかったか。その部分の取り扱いはどのようにして評価しているのかを示す必要があります。
また、確認資料と照合した結果、権利や数量をどのように判断したかを明示しなければ、どの資料に基づいて評価を行っているか、クライアントは把握することができません。
資料の検討及び価格形成要因の分析
不動産の鑑定評価においては、市場の分析、つまり誰がこの不動産を需要するのか、その中で当該不動産の競争力はどのようなものであるか、需要者はどのように価値判断をするのかを行わなければなりません。
それは不動産鑑定士が市場に成り代わり価格を明示する職業であることからも当然です。
これらの分析結果が省略されていては、対象市場がブラックボックス化してしまい、専門職業家としての分析が行われたのか判断がつかなくなります。
また、最有効使用が複数記載されていると、どのような理由で適用手法、重視する手法を選んでいるかもわからなくなってしまいます。
特に土地の最有効使用が、あれにもこれにも使えると書いてあると、極端に言うと工場用地の比準を行うのか、マンション用地として比準・開発法を適用すべきなのかもわからなくなります。
鑑定評価の手法の適用
最有効使用に合わせた手法適用がされていない場合、そもそも鑑定評価の理論が理解できていないと思われても性がありません。
特に前段の最有効使用が複数記載されている場合に併せて起こりがちな現象だと思いますが、「最有効」使用ですから、用途は一つに絞られるはずです。
周りの用途が混在していて、標準的使用がたくさんのパターン考えられるのはわかります。
その中で最も対象地の効用を発揮するような使い方を選ぶ必要があります。
そのためには、評価書に記載しなくても、裏計算等で、各種の用途における土地の価格をシミュレーションし、どの使用方法で使った時にもっとも価値が高くなるかを試算するなど、その使用方法を選んだ根拠は把握しておく必要があります。
試算価格又は試算賃料の調整
以下の記事でも記載していますが、試算価格の調整は市場参加者が重視するという観点から行う必要があります。
収益性が重視されるゴルフ場の価格を決定するのに積算価格を関連付ける等の行為は、通常ゴルフ場に投資する法人は行わないでしょう。
市場参加者の実態から大きくかけ離れる調整は決してやってはいけないことの一つです。
なお、改めて申し上げますが、これらの指摘は過年度の指摘と重複が本当に多いです。
しっかり、なぜその対応が必要なのかを理解し、万一国土交通省から指摘を受けるにしても毎年違う内容で指摘を受けるようにしたいものです。
コメント