大阪のIR用地の鑑定評価額が発注した4社の鑑定会社のうち3社で一致したらしい。
このニュースを見て、最初は「鑑定評価ではなく、IR用地として使うことを前提とした価格調査(シミュレーション)で、評価前提として収支計画などを与えられて試算したものであろう」と思っていました。
上記の前提であれば、収益還元法や開発法のパラメータのブレがなく、価格はある程度収斂してもおかしくはないのではないか。
そう考えたためです。
現在、評価書や詳細は一切公表されておらず、ネット記事だけを参照した段階で本記事を書いていますが、これをみると実態はそうではないようです。(2022年12月12日時点)
評価前提としては「IR用地であることを考慮外」としているようです。
鑑定評価においては通常の使用能力を持った人により実現可能な最高最善の使用方法(最有効使用)を前提に評価するため、「正常価格」を評価するにあたってはIR用地が最有効使用でないということは問題ない判断であると思います。
一方、そうすると鑑定士が最有効使用を決定し、その最有効使用の下で各種の試算を行うことになるため、「価格・賃料のブレ幅が全くない。」というのはかなりのレアケースでしょう。
今回の場合、新規賃料を求めるにあたっては、まず土地の価格を評価するため
・取引事例比較法
・収益還元法
・開発法
・(原価法)
を適用します。
その後、土地価格をベースに賃料(地代)を評価するために
・積算法
・賃貸事例比較法
・賃貸事業分析法(収益分析法)
を実施することになります。
この7つの手法を駆使して各試算価格、試算賃料を算出し、それらを吟味・調整して鑑定評価額に至るわけですが、これらすべてを適用したうえで鑑定評価額が一致するとはどういう状況なのか。
価格について
取引事例比較法では、様々な取引事例を収集・分析して試算価格を求めます。
ブレが出るポイントとしては、
・取引事例は鑑定士それぞれが異なる調査により収集する
・各事例と対象不動産をの価格形成要因を比較する(複数のパラメータを設定する)
・各事例から求められた価格を調整して1つの試算価格を決定する
等があります。
今回は類似の取引事例は少ないでしょうから、1番目の要素としては同じ事例を全員が使っていた可能性もあります。
2番目の要素も、もしかすると統計分析のような機械的な手法を全員が同じように用いて計算すれば一致することがあるかもしれません。
3番目も、それぞれの価格の中庸値を採用すれば一致するかもしれません。
しかし地価公示のような標準的な土地の取引事例比較法でも価格は一致しないことがありますので、今回のような様々な要因が絡み合う土地での一致は難しそうです。
収益還元法では、
・土地の上の最有効使用の設定をする
・設定した建物のレイアウト等を考え、各区画に賃料を設定する
・設定した建物の想定空室率、維持管理費用、修繕費用、リーシング費用、テナント交代期間、建築費用、公租公課、損害保険料などのパラメータを設定する
・土地建物複合不動産について、投資の収益率となるような利回りを設定する
これだけの設定を行い、価格を決定する収益還元法で試算価格を一致させるのは不可能に近いと思います。
いくら同じ土地の上に建てる建物とはいえ、そもそも同じような建物を建て、賃貸可能な面積も同じという想定ができるのでしょうか。
また、利回りも、鑑定士は0.05%の査定を自信をもってできる人はほぼおらず、ある程度の幅をもってそれぞれが正解のレンジの中から決定しているでしょう。
これを完全に一致するというのは、難しいといわざるを得ません。
開発法では、
収益還元法の要素と被るものも多いですが、そのほかに
・開発期間
・開発関連費用(販管費等)
・投下資本収益率(危険負担率、金利、開発期間中の工事遅延などの各種リスクを踏まえた収益率)
・開発時の費用支出時点
等様々な想定要素が加わります。
全ての項目で標準的といわれるような魔法の数字はないため、基本的には鑑定士が、専門家の意見を聞きつつ査定することになります。
それぞれの鑑定士で設定した建物も違うのが普通ですので、開発期間や費用の支出時期を全く同じにするということが難しいでしょう。
開発法の価格を示し合わせたように一致させるというのは、かなりのハードルだと思います。
さて、上記3つの手法を用いて査定した土地の価格を調整して土地価格が決定されます。
土地価格を一致させるだけでも相当なハードルがあることがお分かりいただけたと思います。
続きます。
次回は賃料とまとめ、結論になります。
併せて一つの記事となります。
次回はこちら
コメント