事業用不動産の鑑定評価を行うにあたっては、その特性(利用方法の個別性の高さ、賃貸市場の未成熟)のため、賃貸借の事例をもとに適正な賃料水準を把握することは困難である。
よって事業の採算性の観点から収益の分析を行い、適正な賃料水準を把握する必要がある。
ここでは適正な賃料水準の把握の方法として、当該事業用不動産の運営から負担可能な賃料(負担可能賃料)を算出する方法を解説する。
売上高に率を乗じる方法は使えるか
広く一般に負担可能賃料水準を把握する方法として、売上高に賃料負担率を乗じる方法が知られている。
例えば小規模のショッピングセンター(商圏5㎞、物販中心)であれば、売上高に3-6%を乗じるとか、粗利益に20-25%を乗じる等の方法で負担可能賃料水準を把握する方法である。
この方法はいかにも簡易的に実施でき、そのレンジも広いため、使い勝手がよく、多くの評価書で自らが採用した賃料が妥当であるとの検証に使われている。
一方でこのような負担可能賃料の求め方では、費用効率を全く考慮していないことになる。
同じ10億円の売上でも、赤字の事業者もあれば、黒字の事業者もある。
このような不動産の個別性を全く反映できないため、この方法には問題がある。
よって費用面も考慮した負担可能賃料の求め方が必要となる。
不動産経費控除前営業利益(GOP)による方法
そのためには、企業の営業利益率をベースに不動産に関連する費用を調整して負担可能賃料を求める方法が考えられる。
この方法では、売上高から不動産関連経費以外の当該事業の運営に必要な費用(例えば売上原価、人件費、販売費等)を差し引いて、不動産関連経費控除前の営業利益を求め、さらにそこから経営に帰属する部分、営業資本(什器備品など)に帰属する資本、リスクバッファーを控除して負担可能賃料を算定する。
不動産関連経費控除前とするのは、収益還元法の適用において、運営経費の各項目で不動産関連経費を計上していくことになるためである。
なお、実務上は対象不動産から生み出される営業利益に不動産に関係する下記の経費を足しこんでGOPを求めることが多いと思われる。
- 減価償却費
- 支払保険料
- 地代(借地の場合)
- 公租公課(固定資産税・都市計画税)
- 維持管理費(収益還元法で加味する場合)
- 水道光熱費(収益還元法で加味する場合)
要は、不動産から稼ぎ出す収益のうち、いくらまでならば不動産に払えるかということを算定するわけである。
なので、営業利益に不動産関連経費を足しこむことで、不動産に関連する支払い前の段階でいくらのお金が手元に残るか(つまり残ったお金が不動産に払える最大値)を算定するのである。
これは収益配分の原則の適用である。
具体例
雪嶺として以下の事例をあげる。
対象不動産の施設別収支明細から、各項目は下記の通りと算定された。
(維持管理費と水道光熱費は賃借人負担とするため考慮しない)
- 売上高 1000
- 売上原価 500
- 販売費及び一般管理費 400
- うち減価償却費 100
- うち支払保険料 20
- うち公租公課 50
- うち上記以外 230
- 営業利益 100
この場合、営業利益100+減価償却費100+支払保険料20+公租公課50=270が対象不動産のGOPとなる。
さらにこのGOPに、下記の項目を加味する。
- 経営者帰属分 30(経営者報酬等をもとに査定)
- 営業資本帰属分 10(営業に要する什器備品(耐用年数15年)を考え、取得価格の6.6%とした)
- リスクバッファー 90%(中長期的な安全余裕率を10%程度持たせることとした)
これを考慮すると(GOP270-経営帰属分30-営業資本帰属分10)×リスクバッファー90%=207
が負担可能賃料となる。
あとはこの負担可能賃料を賃貸収益として通常の収益還元法を行うことになる。
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