会計学も人が作った理論、各基準には作成者の想いがあります。
会計理論の研究の現場では、あるべき理論と実務上の要請がせめぎあっています。
「経済事象を考えるとこうあるべきだ!」という理論的主張と、「実務上それは困難だ。」という実務上の要請の間で基準は決定しています。
例えば、発生主義会計がいい例でしょう。
本当に発生主義の理論的側面を貫くのであれば、収益の発生は商品の製造中であっても、徐々にその価値を高めていく経済事象に着目して、収益計上がされるでしょう。
ただし、実務上それを計るのは大変困難です。
そのため、実務ではこれを修正し、できる限り理想に近づけるため、実現主義という形で、商品が引き渡され、対価を受け取ったときに収益計上がなされます。
一方、商品では難しくても、理想に近づけることができる取引があります。
例えば時間基準による金利収益です。
時間基準は、利息や賃貸料等を時間を基準に案分して収益を計上する方法です。
このようにできる限りあるべき理論に従って処理ができるものは、理論通り処理をするための工夫があります。
そしてその適用に当たっては、通常要件が設けられます(理論に沿って適用しても、おかしくならないような制限をつける)。
(上記はイメージですので、正確な表現は用いていません。ご了承ください)
よって論文を書く際にも、会計理論は、本来はどうあるべきなのかをまず考え、それが実務に合わせてどう変化しているのかという対比でみた方がイメージも付きやすいと思います。
会計理論の勉強をする際は、
- この経済事象では本当はこうしなければならない。(でも実際は難しい)
- であるならどういう落としどころがあるだろうか
- 理論通りできるとしたらどんな取引だろうか
- その時にどういう基準(要件)が必要だろうか
ということを考えるのです。
その前段として、会計のあるべき姿
- 取引の実態を正確に描写すること
財務報告の目的
- 投資家の意思決定に有用な情報を提供すること
を会計の勉強の際に常に意識しておくことが大切です。
会計処理を見たときに、これは自分の直観に反するなあと思ったら、それはチャンスです。どうしてそういう修正が加えられているのかにぜひ着目してください。
その部分は会計基準を決める際にきっと論点になっています。
ASBJが公表する会計基準の「結論の背景」を見ると、そのような色々な可能性や懸念点を洗い出し、その中から実務の要請にこたえるために今のような結論にしたという記載があるはずです。
もしかすると、あなたの疑問のとおりの基準が、外国の会計基準では取り入れられているかもしれません。
その場合は、なぜ日本ではそれが取り入れられていないのかというところも論文の論点になりえます。(日本の商慣習上というのが多いですけどね)
感想ベースの記事になりましたが、
会計学の勉強の際には、
- 取引の実態を正確に描写するにはどうしたらいいか(どんな取引かをしっかり理解する)
- 投資家の意思決定に有用な情報はなにか(売ることに制限がなくいつでも売れるから時価、事業遂行上の制約があり、いつでも売れないなら簿価等)
を是非考えてみてください。
それが理解できていれば、何が借方貸方のどちらの項目に来るのか(何を認識するのか)、時価なのか簿価なのか(いくらで測定するのか)という会計の主要な課題は網羅でき、深みのある論文が書けると思います。
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