こんにちは、不動産鑑定士のKanvasです。
皆さんは空室率の査定をどのように行っていますか。
※鑑定評価基準上では、「空室等損失」は「各収入について空室や入れ替え期間等の発生予測に基づく減少分」と記載がありますが、上記入れ替え期間を加味していないと思われる評価書が見受けられるため、本項を執筆いたしました。
空室率の査定においては、現在のスポット的な空室率だけではなく、中長期的な空室率の傾向を査定する必要があります。
また、マーケット水準は大切な指標ではありますが、そのマーケットレポートに書かれた数値をそのまま参考にすればいいというわけではありません。対象不動産にはそれぞれの個別性がありますので、マーケットレポートで調査されている全体的な空室率をそのまま採用するのでは説得力に欠けるところです。
私は査定対象ビルのこれまでのトラックレコードから読み取れる空室率をベースに、マーケットの動向を加味して空室率を査定すべきと考えています。
対象ビルの空室率の査定において、価格時点現在の空室率をそのまま採用する事例も見受けられますが、これは中長期的な動向が加味されていないと考えられます。
また、過年度のスポット的な空室率の平均として空室率を出す方法についても、入れ替え期間を考慮していないと思われるため、これも中長期的な動向を加味しているとは言えないと考えます。(1月空室率6%、2月空室率7%、3月空室率8%だから平均して7%の空室率と査定する方法)
では、どのように空室率を査定すべきでしょうか。
私は、過年度のトラックレコードを確認の上、テナントの平均回転期間と次のテナント入居までの空室期間を加味して査定することが望ましいと考えます。
例えばテナントの入れ替えは3年に1度起こり、その際には3か月間の空室がある。という場合には、36か月入居+3か月空室を1セットととらえて、3か月÷39か月=7.7%と査定することが考えられます。
当該手法以外にも求め方はあると思いますが、その不動産のこれまでの空室状況、テナント入れ替えにより生じる空室期間という観点は加味すべきと思います。
この方法であれば、三鬼商事様や三幸リアルエステート様が空室率を開示していない地域にあるビルでも説得力のある空室率が査定できるものと思います。
また、マーケットレポートがある地域についても、当該方法により算定した空室率を、マーケット水準を加味したうえで帆修正することにより、より対象不動産の個別性とマーケット水準との乖離を明確にしたうえで、予測精度の高いパラメータ推定が行えるものと考えます。
何より、このように査定根拠を明確にすることが、より説明力の高い不動産評価につながるものと思います。
不動産鑑定評価は、専門家の意見であり判断でもありますが、その判断根拠はしっかりと評価書に記述し、説明責任を果たすことが、AI化が進展する社会の中で求められるのではないでしょうか。 引き続き不動産鑑定評価の説明力向上のための手法を検討していきます
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