還元利回り(キャップレート)の求め方(リスクプレミアムの加算、借地権付建物を例に)

不動産鑑定

収益還元法の適用における還元利回りの決定及びその算定根拠の説明はどの鑑定士も苦慮しているところと思います。

不動産投資家調査の調査結果やリート物件の取引利回り、あるいは収益物件の売り出し事例から相場を把握し、調整して算出される実務が浸透しているものと思います。

ここで、還元利回りの算定で多く使われている手法としては、地域のベースレートを取引事例等から決定し、それに対象不動産の個別性を加味した修正を行うものです。

例えば、地域のベースレート5.0%に、マルチテナントで+0.2%、築年数で+0.5%、借地権のリスクで+1.0%を加算し、利回りを6.7%と決定する。という手法です。

このベースレートの決定に当たっては、上記の投資家調査等のデータが有用でしょう。

また、投資家調査や収益物件のデータがない地域等については、不動産鑑定士の田原先生が解説しているこちらの手法が合理性のあるものと思います。

↓参考リンク

鑑定コラム

(田原先生の手法は、地域の最有効使用の建物を仮定し、当該積算価格に対する収入の割合を算出することで、還元利回りを算定しているものと理解しています。分母に積算価格を使用することが妥当かどうかの論点はあると思いますが、データがない地域においての客観的な利回り水準を把握するにあたってはこのアプローチの説得力は高いものと考えています。個人的には償却修正率を計算式に入れるべきか、外だしして別途検討すべきかは一つ論点であると思っています。)

さて、ベースレートは上記の方法で決まったとして、そこから先の補修正について、どのように説得力を持たせるかということが論点になります。

ここでは具体例を出して、考え方の説明をしたいと思います。

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借地権付建物による借地権リスクの反映

ベースレートに借地権リスクを加算する際に、どの程度のリスクを織り込むのかという問題です。

通常ベースレートを算定するにあたっては、完全所有権の利回りのみ観測が可能で、借地権のリスクを含んだ利回りの観測は事例が少なくとても難しいと思います。

よってこの場合は、完全所有権の物件のベースレートに借地権付建物による借地権リスクを織り込む必要があります。

借地権であることによるリスクは大きく以下の通りと思われます。

  • 支払地代は公租公課よりも高額なため、純収益が低下するリスク
  • 賃貸期間があることによる権利の法的安定性

大きくはこの2点が利回りを上昇させる要因と考えられます。

これらの要因を反映させるにあたり、どのように考えるべきか、ここで事例を設定します。

完全所有権建物の総収益と借地権付建物の総収益は同じ(土地の権利により賃貸収入は変わらない)で変わる部分は支払地代と公租公課の差とすると、収益面での差は総費用に現れ、純収益に反映されることとなります。

また、借地権付建物の積算価格は完全所有権価格に比べ、土地の権利が借地権である分安くなります。

ここで、

  • 総収益100(総収益は完全所有権、借地権で同じ)
  • 土地価格100
  • 借地権割合40%
  • 建物価格200
  • 完全所有権の純収益20
  • 借地権付建物の純収益18(差は支払地代と公租公課の差と仮定)

と設定すると、

  • 完全所有権の利回りは(純収益20÷(建物価格200+土地価格100)=6.7%
  • 借地権付建物の利回りは(純収益18÷(建物価格200+借地権40)=7.5%

となります。

これにより、借地権のリスクは+0.8%であるということが導かれます。

上記の算式は簡易版で、本来的には、借地期間の終了時に建物を収去することも踏まえると、資本的支出などにも差が出てくると思いますので、シミュレーションは別途必要ですが、考え方及び説明方法としては、上記の流れになると思います。

(ほかの要因があるならば、その他の要因を固定して、その要因のみを動かしたシミュレーションを作成して利回りの差分を計算することを繰り返します。考え方は数学における偏微分の考えをもとにしています。)

そもそもベースレートにリスクを加味する方法が妥当かはおいておいて、現在の日本で入手可能な情報をもとに、説明責任を果たそうとすると上記のアプローチは有効になるのではないでしょうか。

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