ホテル不動産評価の留意点(事業用不動産の評価)

ホテルのような事業用不動産を評価するにあたっては、収益還元法を適用し、収益還元法を重視して価格を決定します。

不動産鑑定評価基準が平成26年に改正され、事業用不動産の評価に関する記述が追加されたことから、上記はもはや鑑定評価における常識であると認識しておりました。

しかし、いまだにホテル不動産を原価法による評価する鑑定評価書も一部見受けられます。

まず、このような評価の場合、典型的需要者とその重視する手法の決定に関する分析が不十分であることが挙げられます。

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典型的需要者は誰か

実務指針の記載もそうですが、典型的需要者は誰なのか、彼らはどのように取引の意思決定を行うのかという面が抜け落ちている評価をよく目にします。

(分譲素地なのに、開発業者を想定せず、エンドユーザーが需要者と書いているなど)

典型的需要者のことを考えない評価は、ありえません。

不動産鑑定士は市場に成り代わり価格を提示するのですから、その市場に誰が参加するのかを分析しないなど、評価以前の問題です。

典型的需要者が重視する手法は何か

また、典型的需要者が重視しない方法をもとに価格決定されている評価も目にします。

(収益目的の投資法人が典型的需要者と書いてあるのに、収益価格が低位に出たため積算価格を重視するなど)

典型的需要者が重視しない価格で評価額を出すことは、ありえません。

不動産鑑定士は市場に成り代わり価格を提示するのですから、その市場の参加者がどのように意思決定を行うのかという分析は、最も重要な仕事であり、これがずれていればほかのロジックがいかに正しくても正しい価格は決定しえません。

ホテルはなぜ収益価格で評価するのか

なぜホテルのような事業用不動産を収益還元法で評価するのか、今一度まとめます。

ホテル(のような事業用不動産)はその生み出す収益に着目して取引の意思決定がなされます。

よって当該ホテルを購入し、運営したらどれほどの富が流入するかが価値判断のベースとなります。

また、ホテルの評価に当たっては、収益が比較的安定している典型的な賃貸不動産とは異なり、事業のリスクや経営環境の変化に関する考察も必要になります。

これまでは好調であっても、社会構造の変化、規制の変化、人口動態の変化等により、これまで通りの収益が生み出されなくなる場合には、ホテルとしての価値は減少することとなります。

(今回のコロナ禍やライフスタイルの変化はまさにその最たるものでしょう)

典型的需要者は上記を考慮したうえで、当該事業を実施して収益獲得を狙う事業者や、当該事業に投資をして投資に対する利益を獲得することを目的とする投資法人・投資事業会社が考えられます。

よって、このようにホテルの評価においては、典型的需要者は収益性に基づく収益価格を重視して、事業の運営により生み出す収益を目的に取引の意思決定がされるため、積算価格が重視されることはありません。

いくら高いお金を出して作ったとしても、それに見合う収益が生まれないのであれば、それはただの投資の失敗となります。

そのような投資を典型的需要者が行うはずがありません。

たくさんのお金をかけて作ったハイグレードなホテルだから、収益価格は出ないが、誰かがうまく運用すれば積算価格で買う人も現れるだろう。という憶測に基づいた評価が受け入れられることはありません。

誰かがうまくとか、こういう価格で買う人もいるだろうという前提は、不動産鑑定評価における正常価格の概念を満たしていないからです。

下記部分を満たさないでしょう。

自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。

②対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること

③取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。

④対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。

不動産鑑定評価基準第5章 一部抜粋

100億をかけて作られた物件でも、全く収益を生み出さないならその価値は限りなく0に近いでしょう。(維持費を考えたらマイナスになることもあるでしょう)

鑑定評価において立派な建物が建っているのに鑑定評価額0円という評価は出しにくいと思いますが、本当にその不動産を持っていてもマイナスにしかならないのであれば、しっかり意見を価格として表示すべきと考えます。

評価においては、誰が買うのか、その人はどうやって購入の価値判断を行うのか。これを常に持ち続ける必要があります。

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