【鑑定評価書】簡素すぎる記載は説明責任を果たしていない

不動産鑑定

専門家の仕事で最も大切な部分は説明責任を果たすことだと考えています。

専門家は自らの専門知識を日々深めていますが、これらの知識を活用した成果を、これらの知識がない成果の利用者にわかりやすく、腹落ちするように説明することが大切です。

専門家の長年の経験により・・・というのは、全く説明になっていません。

令和の現在では、そのような態度の専門家は社会では認められないでしょう。

ここで鑑定評価書に話を移してみると、先日私のところに他社で取得した評価書をもって相談にいらっしゃった方がいました。

その評価書では、種々の項目の記載を相当程度簡略化していました。

例えば還元利回りの査定においては、2-3の利回り事例を並べて、これらを参考に対象不動産の立地、規模、築年数等を考慮して、還元利回りを〇%と決定した。

というような簡単なものです。

これは事例を列挙しているだけまだよいですが、参考事例の提示もなしに、定量データは日本不動産研究所の不動産投資家調査のコピーを貼り付け、しかもその値からかけ離れた利回りを採用している事例も見たことがあります。

一体どのようにこの利回りを査定したのか・・・と頭を抱えます。

相談者の方にも、そう伝えするしかありません。そもそも鑑定評価をとった会社の鑑定士に相談せず、隠居している私のところに相談に来るような時点で、説明責任を果たしていないとは思いますが。

査定した数値は依頼者が見てもどのように査定したのか、またあとから検証できるようにすることが説明責任を果たすうえでは重要です。

還元利回りの査定であれば、定量的・統計的な分析を行うことは難しいとして、最低でも

利回り事例として以下の事例を収集した。

事例A:〇〇ビル 規模 築年数〇年 最寄駅○○ 駅距離〇 還元利回り〇% 備考

事例B:〇〇ビル 規模 築年数〇年 最寄駅○○ 駅距離〇 還元利回り〇% 備考

事例C:〇〇ビル 規模 築年数〇年 最寄駅○○ 駅距離〇 還元利回り〇% 備考

上記の事例から、対象不動産と代替競争関係にある不動産の還元利回り水準は〇~〇%程度の水準と判断した。

また、これらの事例と対象不動産との格差要因を考慮すると、事例Aは対象不動産からやや距離は離れているものの、規模・築年数が近く、テナント構成(1F店舗、上階はオフィス)が類似している。

事例Bは対象不動産至近に存するものの、築浅物件であり、建物のスペックがより優れる。

事例Cは最寄り駅は異なるものの、駅からの距離及び規模が対象不動産と類似している。

以上より、対象不動産資金に存する事例Bの水準をベースとして、規模・築年数の要因を事例A、Cを参考に加味して、対象不動産に係る還元利回りの水準を〇~〇%程度と判断した。

上記に加え、日本不動産研究所の不動産投資家調査による利回り水準の推移を加味し、対象不動産の還元利回りを〇%と決定した。

くらいの分析は行っていただく必要があるかと思います。

最低でもこれくらいの内容がなければ、鑑定評価書の利用者はなぜこの還元利回りなのかを判断することができません。

還元利回りが1%異なれば価格は大きく変わります。しっかりと説明責任が果たされる評価書作成を心掛けたいものです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました