財務諸表の作成、売買の参考など不動産鑑定評価をとられることと思います。
不動産鑑定評価書は専門家がその責任で不動産の価格を表示してくれるものということで、表紙に書いている価格だけが注目され、内容を詳しく読まれるということは裁判以外では少ないのかもしれません。
ここでは、私に寄せられた他社で取得した鑑定評価書に関するご相談の内容を踏まえ、納品を受けた鑑定評価書で最低限確認すべきポイントをお伝えします。
モノによっては、全然使うことができなかったということもありますので、しっかり納品時にチェックし、違和感があれば鑑定業者に相談することをお勧めします。
(本来は業務着手前によく相談しておくべきです。)
なお、読み方の詳しい解説などは本が売っているのでそちらに譲るとして、納品時に説明を受けた際などに最低限チェックするべきポイントをお伝えします。
対象不動産の確定
対象不動産の一覧が表示されているページ、あるいは付属資料として、土地の範囲が明示されているページがあります。
ここで、土地等の面積間違ってないか。範囲が間違っていないかを確認しましょう。
面積が間違っていれば、不動産価格の総額あるいは単価が間違っていることになり、鑑定評価額そのものが使えないということになります。
範囲が間違っている場合には、土地の道路付けや形状等の違いによる格差率が異なる可能性も出てきます。
鑑定評価の条件
鑑定評価の条件として、不動産鑑定評価書では
- 対象確定条件
- 想定上の条件
- 調査範囲等条件
があります。
これらの条件が、自らが依頼した内容と整合が取れているか、納得していない条件が付いていないかの確認が大切となります。
どのような条件が付けられ、どういう影響があるかをしっかり確認しておかないと、高いお金を払ったのに使えなかったとなることがあります。
特に問題となる例をお示ししますと、
対象確定条件に、「更地として」という条件がついている
対象不動産が土地と建物から構成される複合不動産である場合、更地として(建物等や土地の利用を制限するような権利がついていない土地)と、建付地(建物等があることを前提とした土地の部分)の価格は通常異なります。
建付地のほうが更地の価値よりも低いことが多いです。
よって、土地の価格を知りたいからと、安易に更地としての評価をお願いすると本当に知りたい価格が得られない可能性があります。
(本当に更地の価格を知りたい場合は、建物を取り壊して売りたいことが決まっている場合など、限定的で、ふつうは現実の状態での土地価格を知りたいことが多いと思いますので、建物があることが前提となるはずです)
調査範囲等条件に、土壌汚染や埋蔵文化財を考慮外とする旨が記載されている
鑑定評価を行う上では、その調査の範囲を限定するために、土壌汚染や埋蔵文化財などの専門的な調査をしなければ価格への影響を判断できないような要素は考慮外とされることがよくあります。
しかし、形式的に考慮外という条件を、説明なく付加していたために問題となったケースも見受けられます。
調査の範囲を限定する条件が付いている場合は、それを付けても問題がないのか、つけることによりどういう影響があるのかをしっかり確認しましょう。
もちろんこれらの要因を考慮外にしない場合は鑑定評価報酬は高くなります。
想定上の条件に条件が記載されている
想定上の条件が記載されているということは、対象不動産に対して、現実の状況とは異なる、何らかのことを想定した仮定の話としての価格が求められることになります。
例えば、「前面の都市計画道路が開通したものとして」ですとか、今現在とは異なる状況を前提とする場合がここに記載される条件です。
このような条件が付いていると、その不動産の今の状態の価格を求めているわけではないので、取り扱いに留意が必要となります。
基本的には、こういう条件で求めてほしいと依頼者側がお願いしない限りは、このような評価条件が付くことはないはずです。
最有効使用の判定
不動産の鑑定評価においては、その不動産の最有効使用(その不動産の効用が最高に発揮されるような使用方法)を前提とした価格を求めることとなっています。
よって、どのような使用方法を前提として価格を求めているかは、とても大切な要因です。
この欄は不動産の特性と不釣り合いなことが書いていないか(その用途地域で建てられないような用途で使おうとしていないか)、複数の最有効が載ってないか(例えばマンションか事務所ビルとして使用と書いてあると、どちらの用途がよいのかわからない)という観点からのチェックが有用です。
ここに書いている方法で価格の試算(いわばシミュレーション)を行うため、これがずれていると価格としては全く間違えたものになります。
とはいえ、この内容を一般の方が明確に判断するのは難しく、不自然なことが書いていないかということを確認するのにとどまるかもしれません。
納品を受けたときに、どうしてこの方法を最有効使用として選ばれたのかを質問し、合理的な考えのもと選ばれているかを聞いてみるというのも一案だと思います。
評価手法の決定
鑑定評価に当たっては、複数の価格評価の手法を用いて価格を決定しますが、使用される評価手法がその不動産を購入したいと考えている典型的需要者にマッチしているかが重要となります。
例えば、都心の賃貸事務所ビルを購入するのは、投資収益を目的とする投資家です。
よって投資家の行動原理に立脚した評価手法が使われているかということが重要となります。
こちらにあくまで一例としての早見表を作っていますが、典型的需要者の判断にそぐわない手法による試算価格が重視されている場合は要注意です。
(特に収益不動産に対して原価法を重視している場合は要注意です。)
各試算価格と試算価格の調整
- 複数の試算価格の水準はどうなっているか
- 鑑定評価額との関係はどうか
- 文言との整合性(需要者は投資家であり収益価格を重視して意思決定すると記載があるのに、収益価格と乖離した価格となっていないか)
という観点から価格の決められ方を確認することが重要です。例えば
積算価格10億、収益価格20億で収益価格重視して試算価格を調整し、鑑定評価額が18億となっていたらそれはどういうことかというと、投資家は20億出せるのに鑑定士は18億でいいよと言っているということです。
それなら投資家は喜んで買うでしょう。
というより、20億出せる投資家がいるので、18億ではなく20億で買われることになります。
つまり、18億円なんて価格は市場では成立しないわけです。
逆もまた同じです。
積算20億、収益10億で収益重視、評価額12億となっていたら、投資家は10億の投資価値しかない物件に12億は出しません。
12億円では市場に出しても割高で、投資物件としては魅力がないため、売れ残ります。そして次第に価格を下げざるを得ず、値下げが続いて収益価格と一致した10億で売れることになります。
つまり、やはり12億円なんて価格は市場では成立しないわけです。
鑑定評価額は、典型的な需要者がどのように取引の意思決定をするかを踏まえたうえで価格が決定されていなければならないのです。
まとめ
以上がよくいただくご相談の内容をまとめたものです。
鑑定士側が丁寧に評価方針等を説明することはもちろん大事です。
一方で、発注者側も鑑定評価という商品がどのようなものなのかを理解しておくことは有用です。
お互いに納得した仕事ができるよう、認知の幅を埋めていければと思い執筆いたしました。
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