今回の新型コロナウイルス禍のような災害時、あるいは災害後の不動産をどのように評価するか。
業績の落ち込みや災害の影響をどのように反映するかが評価上の大きな論点となるケースがあります。
例えば
- 稼働率が大きく低下したホテル
- 売上高が大きく下落した商業施設
- 低稼働の賃貸物件で災害の影響が収まるまで入居が難しい物件
等はその典型と思われます。
ここでは、災害等により一時的に事業の経営状態が悪化している不動産についての評価上の留意事項を考察します。
手法適用上の留意点
災害等により一時的に事業の経営状態が悪化している不動産で、かつこの災害の影響を乗り切ることができれば通常の経営状態に戻っていくような物件の場合、一時的な経営状態の悪化による事業収支をもとに収益還元法(直接法)を適用することは困難です。
その理由は
- 災害中及び回復後を見越したうえでの標準的な純収益の査定が困難
- 当該影響を織り込んだ合理的な利回りを査定することが困難
ということが挙げられます。
コロナ禍の現状、ホテルでは稼働率が半分以下になっているケースも多々あるものと思われます。
現在の稼働率をベースに中長期的な稼働率を査定し、直接還元法を適用するのは困難でしょう。
現在の稼働率が30%で、3年後に災害前の水準である80%まで回復するとして、何%と設定して直接還元法を行うのかを表現するのは非常に困難です。
また、原価法、取引事例比較法の適用においても、一時的な価格の下落を試算価格の査定に織り込むことは難しいでしょう。
- 原価法においては市場性による土地建物一体としての減価修正に織り込んで
- 取引事例比較法においては時点修正率に織り込んで
それぞれ査定することが理論上正しいものと思料されますが、その金額を見積もることは実務的に困難といえるでしょう。
具体的な算定方法
このような場合、DCF法による評価を行うことが合理的と考えられます。
DCF法では、現在の下落した純収益をベースに、災害が続くと想定される期間及び回復の期間を見積もり、それを反映することができます。
当該試算により、災害による収益性の低下とその期間を明示したうえで価格を算定することが可能となります。
もちろん、どのくらいの期間災害は続くのか、どのくらいの期間で市場は回復に向かうのかということは実際には誰も知ることはできません。
実務上は想定を行うことになり、客観的な根拠を示すのも難しいものと思われます。
今回のコロナ禍であれば、
- ワクチンが作られるまでに1年
- 接種が完了するまでに1年
- 経済活動が回復し、元の水準に戻るまでに1年
と期間を置き
最初の2年は低稼働のまま(上記の例では30%)、3年目は1年かけて80%まで回復するとし、その平均である55%を採用した。
という形になるでしょう。
これらが正しいかどうかは査定時点では不明です。
経済アナリスト等のレポートを参考に、専門家としての判断が必要となるでしょう。
しかし、不明といってもこれらを全く明示せずに直接還元法や原価法で試算した価格を採用する場合、災害による不動産価値の下落を考慮していると主張することは難しいものと思われます。
価格時点現在における予測の限界を示したうえで、災害の影響を評価に織り込んで算定することは、説明責任を果たすうえでも重要と考えられます。
さらに、継続評価案件の場合には、これらの検討を行わずにパラメータ設定を行った場合、次年度以降の評価において、整合性で悩むことになる可能性も否定できません。
このようなイレギュラーな市場環境での評価を行う場合には、DCF法を活用し、現在入手しうる情報を最大限に使用した専門家の見解を示すことが求められているのではないでしょうか。
なお、災害をきっかけに市場価値が下落し、回復の見込みがないものについては、災害前と後で大きな価格差が出てしまうケースはあると考えられます。
鑑定評価書への記載
これらは鑑定評価上の不明事項として鑑定評価書に記載するということも考慮すべきかとも思われます。
どの程度災害による効果が続くかは、価格時点現在における資料収集の限界により、明らかにするのは難しいでしょう。
その場合、不動産鑑定士として行った調査結果及び調査の範囲をしっかりと明示したうえでどのような判断を行って評価を行ったかを明示することは説明責任を果たすうえで非常に重要です。
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