不動産鑑定士には、必ずしも正常価格(FairValue)の評価依頼だけがくるわけではありません。
様々な条件の下で当事者のみに妥当する価格や、もしこういう想定をしたらどのような価格になるかといったシミュレーションのような価格まで、様々な価格を評価することがありえます。
鑑定評価基準及びその運用上の留意事項においても、社会的な要請のもと、鑑定士は様々なニーズに応じた評価を行うことが示されています。
これらの鑑定評価基準には必ずしも準拠していない評価を不動産鑑定士が不動産鑑定士の資格をもって評価することは認められており、価格等調査ガイドラインに従った条件設定等の検討を行い、しっかりと記載を成果物にしていれば、不動産鑑定士としての業務の運用上は全く問題はありません。
一方で昨今では、一部を切り取った報道や、個人のSNSなどによる必ずしもしっかりとした裏取りをされない情報の拡散が蔓延しており、上記のガイドライン等に従った成果物を発行しても、誤解を生じてしまうことが見受けられます。
よって不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に従った鑑定評価以外の価格等調査を行う上では、下記の点に留意することを提案します。
成果物の名称を「不動産価格シミュレーション業務報告書」などの、明らかに不動産鑑定評価書とは異なる名称とする。
一般の情報を見る人にとって、不動産価格調査報告書等の名称は、不動産鑑定評価書との違いが分かりにくいです。
鑑定士側の理論としては、鑑定や評価という文言を使っていないし、ガイドラインに沿っている。と思いがちですが、一般の人は違います。
鑑定評価基準にしたっておらず、条件設定等で全く現状を所与としていない評価を行っているならなおのこと、誤解を招かないタイトルとするべきと思います。
価格のそばに条件を記載する。
- 後記の条件のもと成立する価格です。
- 鑑定評価を行った場合には価格が相違する場合があります。
のような間接的な記載ではなく、条件そのものを価格と併記して書き込むことが重要です。
のちに成果物の価格のページを開示請求等で公表された際、誤解を生まないためには、併せて条件等も一緒に公表されるような工夫が必要です。
注意事項としての記入であれば、
- 地中のごみ処理費用は依頼者からの要請により、ご提示見積書の価格を正として控除した価格であり、実際の不動産鑑定士による調査を行った際には価格が異なる場合があります。
- 依頼者が要請した開発計画及び施工方法・期間を指定したシミュレーション価格であり、正常価格の前提となる市場の条件を満たさない場合があります。
条件設定としての記入であれば、
- 地中のごみ処理費用は依頼者からの要請により、ご提示見積書の価格を正として控除した価格としての価格調査を行う。
- 依頼者が要請した開発計画及び施工方法・期間を前提としてシミュレーションを行う。
といった形です。
公的団体への納品物の場合、これを見て意思決定する議員の方は皆が皆不動産評価、不動産鑑定評価制度を熟知しているものではありませんし、内容もすべてをくまなくチェックするというのは、実務的に難しいと思います。
(もちろんやっていてほしいですが)
よって、評価書の表紙に、しっかりと明示し、見落としが内容に鑑定士サイドも工夫をすべきと思います。
まとめ
読み手のことを考えた情報提供というのは、専門家としては重要なことです。
鑑定士自身も身を守り、依頼者の意思決定者が間違いない意思決定を行うためには、どのように受け取られてもできるだけ情報の誤伝達が内容に工夫する必要があります。
鑑定評価基準やガイドラインのパターンだからとそこだけの枠でとらわれず、それは最低限の記載であることを念頭に置き、使われる局面を意識した報告を心掛けることが大切です。
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