やわらかい言葉で不動産鑑定評価基準及び留意事項の6章がつまり何を言っているのかをざっくばらんに、実務的な観点を踏まえながら解説・コメントしています。
(引用符で引かれた項目はすべて国土交通省の不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項からの引用となっています。)
第一回はこちら(補足説明等込み)
前回はこちら
(2)同一需給圏
同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものである。一般に、近隣地域と同一需給圏内に存する類似地域とは、隣接すると否とにかかわらず、その地域要因の類似性に基づいて、それぞれの地域の構成分子である不動産相互の間に代替、競争等の関係が成立し、その結果、両地域は相互に影響を及ぼすものである。また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づいて、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。同一需給圏の判定に当たって特に留意すべき基本的な事項は、次のとおりである。
ここが不動産鑑定士試験の学習上最初に「?」となる部分ではないかと思います。
言っていることは実は非常に単純で、同一需給圏とは「対象不動産を買うときに比較検討するような不動産がある地域の範囲」というものです。
それを基準の文言通りに追ってフランクに解釈すると
同一需給圏とは、対象不動産の購入検討時に、比較するような不動産がある地域の範囲です。
よって、対象不動産の存する地域とその比較対象が存する地域の範囲では、価格水準に関連性があるものとなります。(関連がなければ、比較対象となりえない)
この同一需給圏の中に存する地域というのが、比較検討されるエリアの全体であるので、取引事例比較法の適用における事例の採用はこの範囲内からしなければなりません。
同一需給圏内の類似地域(比較検討できるような地域)は、対象不動産の存する地域である近隣地域と隣接しているかどうかは問いません。
隣接していても、用途が違えば価格水準が違うため、比較対象とはならないし、離れていても比較対象となることはあります。
(隣接していても住宅地と商店街では購入の際に比較検討はされないし、離れていても、同じ市内の1丁目と5丁目だとか、会社をはさんで反対側の駅にある住宅街等は比較検討の対象となります。)
よってこれらの地域では、どちらを買うかということに代替性があるので、相互に競争関係にあり、それゆえ価格水準が関連しています。
片方の地域が高くなれば、もう片方の安い地域の需要が高まる。その結果もう一方の地域の価格も高くなるという形で価格水準は関連します。
後段は、通常は対象不動産を購入の際に比較検討する対象は同一需給圏の中にある対象不動産が存する地域である近隣地域と類似性のある類似地域の中に存するものであるため、地域同士の比較を行うことが必要である者の、そうでないものも存在することを示しています。
それはどのようなものかというと、対象不動産の使用方法が、地域の標準的な使用方法と異なる際に現れます。
この場合は、その地域の中での価格形成とは密接に関連せず、あるいは関連の度合いが低く、地域要因に着目して価格水準を検討するよりもむしろ個別の不動産の用途や規模などによって直接に比較を行う方が有効となることを示しています。
例えば、一般住宅(敷地面積200㎡程度)が建ち並んでいる地域の中の5,000㎡のマンション適地が対象不動産の場合です。
この場合、近隣地域の200㎡の事例の価格水準と対象不動産の価格水準は全く異なるでしょう。
たとえ類似地域の中になくても、同じく大規模のマンション適地の取引事例の事例推移純が対象不動産の価格と密接な関係となるはずです。
なぜなら、この不動産を購入したいと考える典型的な需要者は不動産購入の際に比較検討するのは、対象不動産周辺にある自分で済むような小さな住宅用地ではなく、開発してマンションを売り、利益を生み出すための開発用地が欲しいと考えているため、価格形成要因が全く周辺とは異なるからです。
余談ですが、このような場合に取引事例比較法では直接比較法を実施します。
なお、その場合でも同一需給圏の範囲はその不動産が属する市場を意味しているため、同一需給圏にあるが、類似地域の中にはないという形であり、同一需給圏内にある不動産と比較することは必ず必要となります。
コメント